抑肝散(よくかんさん)は良く使われる処方で、当院に初診される方でも前医で処方されていたり、薬局で買って試していたりする方がおられます。早く言うと訛って、「よっかんさん」になってしまいます。さてその抑肝散には、2種類あって抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)、抑肝散加芍薬黄連(よくかんさんかしゃくやくおうれん)になります。
そもそも抑肝散とは、「肝」を抑える薬なので、肝とは何かです。もちろんこの場合は肝臓ではありませんので、肝臓の薬とは少し違います。ここで言う肝とは、東洋医学で言うところの肝であり主な働きとしては、1)精神や気分をコントロールする、2)「血」の貯蔵、3)筋肉や目の支配、などです。
肝の働きが弱ってくる(抑えが効かなくなる)と、気分をコントロールできずにイライラしたり、興奮したり、落ち着かなくなっったりします。また筋肉の過緊張や痙攣、瞼がピクピクしたり、歯軋りなどが抑肝散の症状になります。「血」の問題が前面に出た場合には、他の肝系の処方(加味逍遙散など)を使う方が良いでしょう。
抑肝散には典型的な腹診所見があり、上記の症状とこの特徴的な腹証があれば、かなりの確率で抑肝散の適応と言えるでしょう。その腹証とは簡単に言えば腹直筋の緊張です。文献的には左の腹直筋の緊張、四逆散は両側の腹直筋の緊張と書かれています。自分の印象的には抑肝散のお腹は同じ柴胡剤の四逆散よりも弱い、四逆散の方がもっとお腹の奥深くまで胸脇苦満がある感覚です。もちろん皆さん処方される側はこんな難しいことは知らなくて大丈夫ですし、処方する側はこれらのことを頭に入れて鑑別しているはずです。
さて、この抑肝散は当帰芍薬散、加味逍遙散、四逆散などと大いに関係のある処方になります。構成生薬を調べれば関係性が分かると思います。更には、抑肝散加陳皮半夏や抑肝散加芍薬黄連が、「加」以下の生薬を加味することにより、どの様な変化が生じるかも分かると思います。次回に続きます。
今週は休診です。薬室は土曜以外はおりますので、お電話の対応は可能です。しかしここはやたらに寒くて乾燥しています。
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細野漢方診療所 細野孝郎