• 内科医師からスタートし、現在は三代続いている漢方専門のクリニックを銀座で開業中。女性系疾患(月経関連、更年期、 不妊症など)、アトピー性皮膚炎などから、ちょこっと体の弱い人までお見えになります。趣味はマラソン(基本的にはインドアでテレビ派)、猫(アメショ)、週に1回の外食。マラソンはsix stars finisher(東京、ボストン、ロンドン、ベルリン、シカゴ、ニューヨーク)日本人では338人目位の達成!!

以前、柴芍六君子湯(さいしゃくりっくんしとう)について書きました。代表的な胃の漢方薬、六君子湯にこれまた代表的な気剤(気の流れを整える)四逆散(しぎゃくさん)を加えた処方です。これは胃の具合の悪さで来院された方にも、逆に自律神経系などの悩みで来院された方にも使える便利な処方です。以前のブログはこちら

そもそも胃は自律神経の影響が強く出ることはみなさん経験あるかと思います。緊張が強いと胃の動きが止まって食欲が出なかったり、吐き気がしたりしたことはあるでしょう。もちろん中にはストレスを受けても肝(かん:漢方で言う肝は臓器の肝臓とは違い、気分をコントロールする部分を指します)がびくともせずに気を流し続ける人もいますが、そう言う人は何とも思わないかも知れません。ただそう言う人でも、長期に渡りストレスを繰り返すと肝にダメージが蓄積され気の流れ(自律神経)が悪くなるので、定期的なお手入れは必要です。

話を戻して、胃と自律神経は表裏一体のため症状ある場合は同時に治療するのが望ましいのです。一方だけ良くしても、他方が悪いとまたすぐに元に戻ってしまうからです。柴芍六君子湯はこの両者を同時に改善してくれる優秀な処方なのです。

実際にあった一例を挙げると

20代の女性の方で、既往症に過敏性腸炎がありました。元々、自律神経が胃腸に影響を与えるタイプの方でしょう。その方が一ヶ月程前から胸の息苦しさ、胸のザワザワ感、呼吸が奥まで入らない、動悸、さらには全身の疲労感を主訴として来院されました。表情も冴えずに、かなり憂鬱そうでした。聞いてみると、食事は食べる気にならない、仕事がとても忙しく緊張が続いているそうです。

腹診した感じでは、右肋骨から下に向けて筋の緊張(胸脇苦満)がありました。舌は綺麗な感じで、胃が荒れていたり熱が篭った感じはありませんでした。脈は元気な大きくて、やや強く、印象としては気は足りているように思いました。

診断的には、胸部での気滞(きたい)となり、気の流れが胸部で悪くなることで胸の不快感が出てきます。気を付けなければいけないのは、女性の場合は瘀血(おけつ)の有無です。これがあると女性系の処方を選択しなければ、自律神経の乱れも改善しません。この方の場合は、月経に伴う症状もなく、また腹診でも瘀血の所見もありませんでした。(とは言え、実際には隠れ瘀血であることも多いです)そこで加味逍遙散(かみしょうようさん)や柴胡剤プラス駆瘀血剤も頭を過ぎったのですが、自律神経系の症状と食欲がないと言うことより、素直に柴芍六君子湯を処方してみました。

あまりにも頑固な場合を除いて、気の流れの改善は思ったより早いでしょう。この方も2週間後には表情も全く明るくなり(こちらもホッとします)、胸の不快感は全て改善していました。ただ一ヶ月ほど、少食が続いていたので、胃が小さくなったのかまだ量が食べれないとだけおっしゃっていました。そこで柴芍六君子湯を引き続き2週間続けたところ、食欲も以前のように戻ってスッキリしたとのことでした。既往に過敏性腸炎もあるように元々ストレスに胃腸が弱いので、今後の予防や健康維持の意味も含めて、今後は自分のペースで服用してもらうことにしました。日に三度きちんと服用するのではなく、自分の感覚で日に1〜3回程度服用して良い状態を保てれば良いのです。

証に合えば柴芍六君子湯は即効です!

三十年以上に渡り、柴芍六君子湯を多くの方々に処方して来ましたが、効果は想像以上に体感できる処方だと思っています。自分にとっては、悩んでいた症状が思った以上に早く改善して「良く効いた!」と言ってもらえる漢方のうちの一つです。

正直言って、長年やっている自分も、今だに新患さんを拝見した後は「どうかな、アレ効いたかなぁ?」とか「やっぱり、◯◯湯にすれば良かったかな?」とか常に気になっています。そうなると2週間後に表情見ただけで効いたかどうかは大体分かります。柴芍六君子湯は2週間後に笑顔が見れる確率の高い処方だと思っています!

食欲と言えば、久々にランチの写真です。泰明庵の「冷やしかき揚げ蕎麦」になります。大昔これは確か900円だったのですが、今は軽く千円を超えてしまいます。天ぷら油や、かき揚げ天ぷらに入っているイカなどの値段が高騰しているからだそうです。ここは長年通っているので、どうしても昔の感覚が抜けずにレジで千円札を渡して、そのまま手のひらを出したまま100円のお釣りを待ってしまいます。「先生!いったいいつの値段言ってるのよ!」と怒られて追加で小銭を出すのですが、やはり帰り道では「高いなぁ〜〜〜」とボヤキながら胃が動かなくなります。胃の動きが悪くなると胃に血流が集まり、体の怠さや集中力の低下、夕方の眠さなどにつながるので仕事に悪影響です!ただこれで完全に記憶に刷り込まれたので、次回からは心して注文するので大丈夫です。
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