• 内科医師からスタートし、現在は三代続いている漢方専門のクリニックを銀座で開業中。女性系疾患(月経関連、更年期、 不妊症など)、アトピー性皮膚炎などから、ちょこっと体の弱い人までお見えになります。趣味はマラソン(基本的にはインドアでテレビ派)、猫(アメショ)、週に1回の外食。マラソンはsix stars finisher(東京、ボストン、ロンドン、ベルリン、シカゴ、ニューヨーク)日本人では338人目位の達成!!

前回パート(1)をアップした日に偶然とは言え出来過ぎな感もあったのですが、薬局でレジを待つ列で前にいた女性の手にK社の半夏厚朴湯を持っていました。年の頃は40代中頃かと思いますが、更年期障害などに付随して出てくる喉のつまり感には、半夏厚朴湯のみでは思った様な効果が得られない場合があります。

前回の続きになりますので、まずはこちらをご覧下さい。

婦人科系疾患や更年期障害など瘀血が併発する喉のつまり感

半夏厚朴湯でいくら喉の部分で気を通しても、自力でその気を回すことができなければ体の気は巡らずに喉の所でつっかえたままです。瘀血が基本にある場合は、瘀血が気の巡りを悪くしているので、いくら通り道だけ作っても効果は実感できません。通り道も確保して、瘀血も改善して初めて気が回るのです。

瘀血って「血」の流れや質が悪いことであり、「気」の問題とは別ではないか??と思われるかも知れませんが、気、血や水はそれぞれ互いに作用を及ぼしながら体内を巡っているので、一つは止まってしまうと、他者に悪影響を及ぼします。ちょうど診療所の窓からJRの高架が見えるのですが、山手線、京浜東北線や東海道本線などが並走しています。例えば有楽町、新橋間でいずれかが故障してしまえば、他の路線は大混雑してやがて遅延してしまうでしょう。気血水も一緒で、更年期の時期となって血の巡りが悪くなれば、それが段々と気の流れも阻害します。最初は月経不順や不正出血などの血の問題がやがて、ほてりやのぼせ、イライラなどの気の問題を引き起こすのです。そして動きの悪くなった気が喉の部分で停滞して喉のつまり感が出てきます。こうなってしまうと、停滞している部分を通すだけではなく瘀血も改善しないと治らない、と納得して頂けるかと思います。

喉だけではなく二カ所での気滞

中には喉だけではなく他の部位でも気滞が起こっている場合があります。この場合も喉だけ通しても、他の渋滞部位も同時に通さなけれ逆に気の流れは大混乱に陥って、喉以外の部位で大渋滞を起こしてしまいます。高速道路で渋滞区間を抜けてアクセルを目一杯踏んで飛ばしていたら、他の箇所でも渋滞があって、止まっている車のテールランプがいきなり目の前に飛び込んで来たのと一緒です。この場合渋滞ポイントはほぼ季肋部周辺と考えて良いでしょう。これがいわゆる胸脇苦満(きょうきょうくまん)と言って、胸の部分の気滞の存在を示唆する所見です。

通常、胸の気滞があると胸部症状(動悸、胸の閉塞感、モヤモヤ感など)を伴うこともあり、「深呼吸をしても息が深く吸えない」とか「胸騒ぎがする」などを主訴にお見えになる方も多いです。詳しくは書きませんが、この場合は腹部の張りがある場合もあります。この場合は喉だけではなく、胸(季肋部)の気滞も同時に解消しなければ改善は見込めません。これは男性の喉の詰まりを訴える方に多い印象があります。

補足になりますが、胸部不快感などなく腹診上に胸脇苦満のみが存在する場合があります。さすがにこれは自分では判断できません。しかしこの場合も胸脇苦満に対する処方を半夏厚朴湯に加えなければ、喉の詰まりは納得できるレベルまで治りません。

具体的には何を買えば良いのか?

瘀血症状がある場合はズバリ「桂枝茯苓丸」を試してみましょう。もちろん桃核承気湯、大黄牡丹皮湯や桃仁承気湯、あるいは牡丹皮桃仁のみ加える、更には半夏厚朴湯を使わずに通導散のみなど、ケースバイケースなのですが、薬局で買うなら単純に考えて桂枝茯苓丸にします。半夏厚朴湯1/2量に桂枝茯苓丸2/3量程度から開始が目安になるかと思います。効果発現まで短くて2週間、1ヶ月程度服用して効果なければ次の手を考える必要があります。

胸部症状がある場合は、四逆散、小柴胡湯、大柴胡湯などの併用が考えられますが、こればかりは診察しないとどれかと言えないのですが、当院の場合の使用例は大柴胡湯>四逆散になります。小柴胡湯はほぼ使いません。特に大柴胡湯は喉のつまり+お腹の張りのある男性に効果的です。(女性の場合は駆瘀血剤を使います)この場合、半夏厚朴湯2/3量に大柴胡湯1/2~2/3量程度からです。四逆散ならばもう少し少ない量でも大丈夫かと思います。こちらは効果発現まで上記とは異なり、経験上から1か月〜3か月は我慢して観察して下さい。

ご質問:1包を細かく分配するのが面倒です

薬を合わせるの面倒なので、桂枝茯苓丸を朝、夜に1包づつ、半夏厚朴湯を昼に1包で良いか?との質問を以前に受けたことがあります。確かに保険漢方では合方としてその様な出し方をしているでしょう。ただ自分はその様な出し方をした経験がないので、何とも分かりません。大昔、大学病院で漢方外来をやっていた時にも、桂枝茯苓丸1.5gと大柴胡湯1.0gを1日3回と手のかかる処方箋を出して、門前薬局から面倒だ!通常の一回量が2.5gなのに1.5gでは少なくないか!?など、やいのやいの電話が来た記憶があります。今考えるととても面倒なお願いだったと思います。ただ患者さんが薬剤師にフィードバックするので彼らも「これが効くの!?」と興味が出てきたらしく、そのうちに「どうしてこの様な配合比になるのか、前回と比率が異なっているが何が違うのか知りたい」などと質問のレベルが上がって来ました。さすがにここに書くほど電話では細かくは説明できませでしたが、大筋を伝えてあげると納得してくれて、その情報を薬局内で共有しその後はとてもスムーズにやって頂きました。ちょっと話がずれてしまいましたが、複数処方の合法作戦はそれなりに効果はあるけれども、朝昼晩に1包づつ作戦はちょっと経験ないので答えようがありません。みなさん試してみて逆に教えて頂ければ勉強になります。

写真はうちの近所にある中華屋さんの焼そばですが、この麺の下側に具材が入っています。餡を麺で包んだ状態で提供されます。これがこの店の看板メニューです。これまでに何度か試したことはあるのですが、正直あまり好きではありませんでした。上から餡をかけた方が食べやすいからです。なので焼そばが食べたい時には、通常タイプの焼そばを頼んでいました。ただこの店も、リニューアルにより閉店してしまうことになったので、最後のお別れに久々に食べて来ました。やはり麺が上に乗っていると、揚げた麺がバサバサして食べにくいです。もしかして麺がふやけない様に、餡を下にしているのか?そうなるとバサバサ感は欠点ではなくむしろ特長になるのか??

こうやって上にするのか、下にするのかで食べる側の意識や感じ方は大きく異なります。漢方の合方も同じで、桂枝茯苓丸合半夏厚朴湯と半夏厚朴湯合桂枝茯苓丸(主となる処方の名前を前に付けます、なので前方の処方の方が量が多い傾向にあります)では意味合いが異なります。必要に応じて入れ替えると(分量を変えると)、同じ組み合わせの処方でも、また違った体感が出るので不思議なものです。

蛇足ですが、プリンもひっくり返してカラメルソースの部分が上にある方が美味しく感じます。これも気になる気のせいでしょうか??
診療日誌トップ

細野漢方診療所 細野孝郎