• 内科医師からスタートし、現在は三代続いている漢方専門のクリニックを銀座で開業中。女性系疾患(月経関連、更年期、 不妊症など)、アトピー性皮膚炎などから、ちょこっと体の弱い人までお見えになります。趣味はマラソン(基本的にはインドアでテレビ派)、猫(アメショ)、週に1回の外食。マラソンはsix stars finisher(東京、ボストン、ロンドン、ベルリン、シカゴ、ニューヨーク)日本人では338人目位の達成!!

時期柄もあり、コロナ感染症やインフルエンザ関連での検索から当ブログにお見えになる方の数がかなり増えています。前々回のブログでも書きましたが、葛根湯や小柴胡湯加桔梗石膏がニュースになったおかげかと思います。

コロナ感染症やインフルエンザに葛根湯などの麻黄を含む処方を使うのは特に問題はなく、また長期に服用するものではないので、副作用も動悸などにさえ注意すれば大丈夫かと思います。しかし以前にも書いたのですが、コロナだから、インフルエンザっぽいからと適当に小柴胡湯を服用するのはちょっと違うと思います。

葛根湯はある意味幅広く比較的安全に服用できる処方ですが、小柴胡湯はそうではありません。服用する人の体によるところが大きな処方で、服用できる人の体質を選ぶ処方です。つまり中には小柴胡湯が合わない人がいる、しかも間質性肺炎などの重篤な副作用を起こす可能性があるのです。もちろん頻度としては大きくありませんが、今回の新型コロナ感染症では何が起こっても不思議ではないので、より安全な処方があれば、漢方本来の考えからしてもそちらを選択するのが妥当でしょう。

漢方系の医学雑誌を見ていると、最初(太陽期)に麻黄剤や桂枝湯を投与するのは同じですが、少陽期には柴胡剤として小柴胡湯を使っている例は少ないです。むしろ柴胡桂枝湯などの投与をされています。これは我々が長年やっている治療法と同じで、ブログの中でも何度も書いていますが、外邪が外にいるのか、中にいるのか、裏まで進行したのかにより(病位)異なり、また城の防御力(体質)によっても異なります。小柴胡湯はかなりしっかりとした防御を持ってはいたが、敵が中に留まった状態にこそ適応になります。よろしければこちらを参照下さい。

話変わって葛根湯について少し考えてみましょう。葛根湯は大メジャー処方で薬局に行っても漢方薬コーナーの目に付く場所に必ずあります。ただし、最近は品薄状態で売り切れになっているかも知れません。医療用の葛根湯も大手メーカーの品は出荷制限がかかっていると聞きました。小柴胡湯がブームになるよりは良いかと思っています。

当院の葛根湯は半夏を加えて、葛根湯加半夏としていますが、難しく考えずいわゆる葛根湯と思ってもらって結構です。先日も新型コロナに感染した患者様で、非常用として家に取り置いていた葛根湯加半夏が非常に役に立ったと報告して頂きました。その方の症状は、高熱、喉の痛み、体の節々の痛み、酷い頭痛などで葛根湯がすごく効いたそうです。頭痛と体の痛みで寝ることすらできない状態が、葛根湯を服用すればこれらの痛みが楽になり、食事を摂って寝ることが出来たそうです。食べて寝ることが出来ると言うことは、漢方的には「気」(エネルギー)を体に補充出来ると言うことです。そうなれば自然と体は良い方向に向かって進んで行くでしょう。

葛根湯は、桂枝、芍薬、甘草、生姜、大棗の5種類の生薬から構成される桂枝湯(けいしとう)に葛根、麻黄を加えた処方になります。

葛根湯=桂枝湯+葛根+麻黄

桂枝湯は葛根湯と同じく風邪などの初期に用いる処方です。非常に優しい生薬から構成されるので、子供も安心して服用できる漢方です。桂枝湯は作用も穏やかで、効き目としてはイマイチに感じられるでしょう。桂枝には外邪を穏やかに追い払う作用があります。しかしそれでは外邪を追い払えないために、葛根や麻黄の強い力に頼る必要があります。以前にも書きましたが、外邪を汗と共に押し出したいのですが、もちろん既に汗をかいている状態は桂枝湯でもよいのですが、汗をあまりかいていない場合は発汗作用の強い葛根湯が必要になって来ます。風邪のひき始めなどで寒気がして熱が上がってきた時に汗をかいて翌日は解熱してスッキリとした経験はあると思います。それを促進してくれるのが葛根湯だと思って下さい。

葛根湯や桂枝湯は太陽期の処方ですが、太陽期とは何もコロナやインフルエンザ、風邪などに限ったことではありません。体表部位に病邪があるものは太陽病と考えて構いません。例えば頭痛、肩凝りなども体表部に病因があると考えて葛根湯を用いることは良くありますし、これらの症状にもとても効果があります。あとは発疹などの皮膚炎にも使う場合があります。私は大人の皮膚炎には少陽期に使用する解毒系の処方を頻用しますが、子供の皮膚炎には解毒系処方は使いずらいので、この桂枝湯を主として処方します。さらには花粉の時期には頻用されるみなさんご存知の小青竜湯や、また子供の体質改善処方の小健中湯、また小柴胡湯よりもオススメな柴胡桂枝湯なども桂枝湯がベースになります。桂枝湯ベースの処方は数多く存在し桂枝湯類と呼ばれています。

そして今年の最後はかしわ蕎麦です。いわゆる蕎麦類です。桂枝湯はかけ蕎麦みたいなもので、鶏肉を入れるとかしわ蕎麦、鶏肉と卵でかしわとじ、天ぷらを入れると天ぷら蕎麦・・・・・・桂枝湯に葛根、麻黄を入れると葛根湯、膠飴を加えると(さらに桂枝湯の芍薬を倍増)小建中湯、桂枝湯に麻黄、細辛、乾姜などを加えると(さらに一部の生薬を抜く)小青竜湯・・・・・・つまりベースが蕎麦である限り、基本的に蕎麦料理です。漢方処方も基本が桂枝湯であれば、病気が太陽期にあるもの(あるいは重なっているもの)に使うのが基本であり、そこを間違えると「やっぱり漢方って効かないなぁ〜」とか「漢方って効くのに時間かかるなぁ」(そんな使い方じゃ一生効かないですが)とぼやくことになります。そしてそんな太陽期だ、少陽期だと判断が難しい、また両期にまたがる移行期状態もあるので、桂枝湯と少陽期の小柴胡湯を合わせた様な柴胡桂枝湯が幅広く服用しやすい処方(単に両者を足しただけではなく生薬も加減されているので、小柴胡湯より虚弱な状態に用いられます)となるのです。

年の最後にややっこしい話となってしまいましたが、このあたりのことは自分もたまに頭の中で整理しておかないと(もう少し整理できていれば、もっともっと分かりやすく書けるのですが・・・・・)ごちゃごちゃになってしまうので、よろしければ診察の時にでも質問して下さい。そうして頂けると、またその場で調べたり思い出したりで再確認して整理できます!

そしてうちの猫は今日も敢然とブラーバと戦い続けるのでした。大掃除の邪魔でしかありません!!

みなさま本年はどうもありがとうございました。引き続き来年もよろしくお願い致します。

細野漢方診療所 細野孝郎